ある日のまめの木の子供たちのミーティングの中で、1人の女の子が、特定の男の子から向けられる暴言に「ただしんどいから、やめてほしい」と訴えた。
まめの木は安全な場所であって欲しいし、嫌な気持ちになりたくないという意見に他の子たちも同意し、対策が話し合われた。結果、他の子に対して暴力的な行為や不快な気持ちにさせる暴言を使った場合、通常1日に1人あたり90分と決められてるゲームをする時間が10分減らされるという案が出て、みんなに承認された。
それから1週間ほど経って、誰かが特に時間を減らされたわけでは無かったが、ミーティングの中で減らされる時間を30分に伸ばしたいという意見が出た。この意見に、1人の男の子が頑なに反対し、話が前に進まなくなっていた。
すると、一番最初に言葉遣いが乱暴だと言われた男の子が、「時間減るんじゃなくて、なんかいいことしたら増えるんはあかんの?」とみんなに問いかけた。今まで罰ばかりが話し合われていたことで、みんなが少し憂鬱な気持ちになっていたこともあり、みんながこの前向きな案を大絶賛。自分の提案をみんなに褒めてもらった男の子も、嬉しさが見てわかるほどに晴れやかな顔をしていた。
この話はここで終わらなかった。ミーティングはさらに続き、「いいことってなんやろ?」という質問についてみんなで考え始めた。「人が喜ぶこと」や「したくないことを代わりにする」のようなアイデアが出た。話し合いが続き、「ゲームの時間も増えたり減ったりするなら、ゲームをしたくない人に、いい事をして、分けてもらうこともできるんちゃうん?」という話にまで発展した。「そうするとゲームの時間がお金みたいに使えるやん」っと誰かが言ったところから、話がどんどん思わぬ方向に進み始めた。
ゲームの時間でするより、まめの木で、自分たちが使えるお金を作ったらいいという話まで出てきた。
その日のミーティングはそこで終わり、この話も立ち消えになるかなと思っていた。
だが、普段はしないのに、女の子たちがミーティングの内容を紙に書き、次回必ずこのことについて話し合いたいと言った。
その後2度のミーティングを経て、まめの木の中でしか使えない「豆」という通貨が生まれた。子供たちには、それぞれ、「10豆」が配られた。ゼロからのスタートではないらしい。ちょっとベーシックインカム。
短冊の紙を切り、オリジナルのお札を作り、偽札を作られることが無いようにちょっと細工をすることまで考えていた。
お金が初めて発行されたその日に、数人の子供たちが近くのスーパーに行き、子供たちが普段から自分たちで管理している子ども活動費を使って、りんごと砂糖を買ってきてリンゴ飴を作った。飴を作る作業をしなかった子たちは、3豆でリンゴ飴を買うことができた。分かり易い結果にすぐ繋がったことで、小さい子たちもこの「豆」を真剣に捉え始めた。
減るだけでは仕方がないということで、子供たちで話し合い、どうやったら「豆」を得ることができるのかを決めるために、普段は午前中に一回しかしないミーティングを、午後にもして、この新しいお金のシステムのルールについて話し合った。
窓拭き 5豆
トイレ掃除 7豆
テーブルの下掃除 2豆
本を揃える 5豆
2階を1人で掃除 10豆
リビングを1人でピカピカにする 15豆
大人にとっては嬉しい限りの展開である。小学3年生の男の子が「トイレ掃除やる!」「教えて!」と言ってきた。7豆稼ぎたいからではあるが、普段、あの手この手で掃除から逃げようとしているその子を知る側からすると、もはや奇跡だった。
まめの木をみんなにとって安全な場所にしたいと始まった話し合いから、地域通貨の話にまで発展した。もうゲームに興味がないという子が別の子に、自分のゲーム時間を10豆で販売するという動きも出てきた。
これが、子供たちみんなに受け入れられ、定着するのか、何かうまくいかなくなって消えてしまうか、これからが楽しみだ。
投稿者 :西村 源